○小中一貫教育 島根県松江市
1 「小中一貫教育」とは〜視察を行った背景
昨年(平成21年)9月議会の一般質問で、この言葉が出てきました。
すでに教育委員会で春から検討が進められていたとその場で知りましたが、議会に対しては、私の記憶ではこの本会議場での発言が公式には初めてであったと思っています。
質問者に対する答弁は、私の印象では答弁としてはやや要領を得ず、聞きたいことに応えてないという感じが残りました。
小学校から中学に進むに際して不登校、いじめ、そして授業についていけないなどの問題が発生、それらを「中一ギャップ」と言うとのことです。
「それを何とかするのが先生と学校じゃないのか」
「自分たちの手に余ると制度をいじるのか」
大変失礼ながら、私の抱いた感想はそのようなものでありました。
続いて12月議会でも、このことが質問で取り上げられていました。
質問を聞けば聞くほど、そして答弁を聞くにつけ、
「ほんとうに大丈夫なの?」
「学校経費節減、統廃合のカクレミノなのでは?」
との、反対側、疑問視側の質問論旨のほうがよほど説得力がある。そんな印象に私は傾きました。
そこで先進地の取組を学ばせてもらおうと、島根県松江市に伺うことにしました。
2 松江市の取組概要
「松江市小中一貫教育推進基本計画」という資料をいただきました。大変整然と、また市民にも分かりやすく理念や方向性、データが示され、これまでの家庭向けミニ通信のようなチラシ、新聞スクラップなど、立体的に理解することができます。さらに視察では副教育長ほかこれまで専門的に取り組んでこられたスタッフの方々に懇切に説明いただきました。
ここではキーワードを示しながら、報告します。なお文責は内田にあります。
○経緯
・H11〜 日本初、品川区で取組始まる。広島呉中央学園が文科省研究開発学校に指
定され、先進の取組がなされることに注目。
・H17 島根県の不登校数データなどから、小中連携が課題に。
・H18 合併あり、新松江市学校教育プラン策定、一貫教育推進構想、小中教員の
相互交流研修事業開始
・H19〜 市内4エリア、順次モデル指定
・H21 「小中一貫教育推進課」設置
・H22 本格実施、地域推進組織設置、校区学園化開始、一体型施設開校
・H23〜 中学校区学園化、学園教育を推進する
○「6・3」制度から「4・3・2」へ
中学の先生は小学校の教科書を見ることもなかった。ここには教員免許のことが背景
にある。「全部教えた」と小学校の先生。「こんなはずでは」と中学の先生。特に数学な
ど、中一で「格段に難しくなる」(この部分は新聞報道より)
「6・3」制導入当初と現代では、子どもの身体と心の両面の成長曲線が大きく異な
ってきている。そこに「6・3」の無理が生じている。
「子どもは、6・3制に戸惑っている」「小中間にミゾ」
国に「特区」の制度がある(教育課程特例校制度)が、法律上(学校教育法)、「6・
3」制を崩してよいわけではない。限界がある。そこで運用面でいくしかない。
スムーズな9年間にするための手法として「4・3・2」「5・4」「2・3・4」と
いう方法がある。松江市は「4・3・2」の手法を採用。小1〜4、小5〜中1、中2
〜3の区切りを設けて教育課程を組む。
○小中両先生の「相互乗り入れ」
両先生が小中を行ったり来たりする。小学校の授業に中学の先生も参加。モデル校か
らの声「2人先生がいるのでわかりやすい」「中学校への不安も解消」。
両先生にとってお互いの問題点が見えてくる。
あるモデル校では不登校が4分の1に、また問題行動もほぼゼロに。
小中一貫教育で必要とされる教職員とは、
・9年間を見通して考えることができる教職員
・保護者・地域と協働して考えることができる教職員
○学校だけではうまくいかない
小中一貫は「目的」ではなく「手段」。
少子化、情報化の時代で、学校だけでは目的が達成できない。
学校・家庭・地域の連帯目指す。
「学校力・家庭力・地域力を編み直す小中一貫教育」
⇒松江市の取組を見て、単に学校の仕組みを変えることに止まらず本格的に地域ぐる
み、家庭ぐるみの運動としようとしていることに、とても説得性を感じた。(感想で後述)
○「学園化」
小中一貫教育の「目的」は「校区(学校・地域)の教育諸課題を解決し、子どもたちの
より健やかな成長を図ること」
そのために、「小学校と中学校が共同して取り組む、学校と家庭・地域が協働して取り
組む。そのための手だて・枠組み等を整備していくこと」
このような考え方から、中学校区をひとつの「学園」とみなし、環境を整える動き。
この中で「4・3・2」制をカリキュラム化。
学園名、学園章(シンボルマーク)も考案する。
学園化については東京都三鷹市を参考にした。
○地域推進体制
学校での小中一貫教育を「タテの一貫教育」とし、これに対置させて学校・家庭・地
域が協働した取組を「ヨコの一貫教育」に取り組む。
そのために中学校区単位で「地域推進協議会」を設置する。
全体では年2〜3回程度の会議を開き、意見交換、行政への要望などを行う。
20名規模。地域、保護者、学校の各代表。
その活動を促進・補完するために、文科省がいう「学校支援地域本部事業」の考え方
から「地域コーディネーター」を配置する。
現在の「学校評議員制度」は役割を終える。
メンバーが固定化されることはよくない。亀裂が入ると修復不可能。2〜3年で入れ
替えができるのは良いこと。
ここまでのモデル校では、地域の方が教室の中へ。クレーム激減。現場を知り、現場
に関わることでクレームは減る。クレーム対応の時間が減らせた分、先生は子どもに時
間が割ける。
○「教委」でなく「行政」が推進
市の推進組織。推進事務局は小中一貫推進課。庁内関係部局として政策企画課、子育
て課、市民活動推進課ほかが関わる全庁体制。
○3つのタイプ
@一体型A隣接型B複数型。さらにBの中に、・小学校同規模、・小学校異規模、・小学
校多数、の3タイプがある。
一体型のメリットは品川区に学ぶ。
複数型では、複数の小学校間での情報交換ができるメリットもある。
共通しているのは、
・小中教職員の共同指導体制の確立
・9年間を見通した教育課程の編成と実施「国を待っていられない」
・学校・家庭・地域が協働した教育の創造
○「推進カレンダー」や「だより」
添付の資料には新聞掲載の記事のほか、各学校や地域が出しているミニコミ通信がた
くさんあり。特に、「小中一貫教育推進カレンダー」は、子どもの動きがよくわかると、
「交番にも人気」。掲載されているのは各校と公民館での行事を色分けで。地区文化祭、
カルタ大会、三者面談、期末テスト、などなど。
各校工夫された「だより」には写真も豊富。
3 感想
視察のあと、すでに3月議会も経過。採決に先立ち、賛成討論として、同僚福部氏が
松江の小中一貫教育を引き合いに出しながら発言しました。
何より「賛成」の立場で言うのであり、また公の発言であることに配慮しなければな
りませんでしたが、議席からは「それでは反対やん?」とのささやきも聞こえていまし
た。
まさしく、私どもはいつでも、丸亀市の手法次第では反対に回ります。
にわかにこの3月議会では、かの「二学期制」についてまで話題が飛び出し、教育長
がその見直しについてまで言及するに至り、私は当時の、あの議論は何だったのか、そ
うかあの時には前任の教育長であったのか、など、思いを巡らせました。
あとあとに禍根を残すのは迷惑なだけでなく、教育行政と教育者全体が、「信用」を落
とします。浅慮つまり本質の見えないままの推進、見通しの甘さ、連携のずさん。この
ようなことがあって宙ぶらりんの教育改革がなされるようなら、私どもは反対します。
こうして3月議会で福部氏が賛成討論したことを振り返りつつ出張レポートを書いて
みると、やはり「賛成」でよかったのだと思います。本格実施は今春ですから、その成
果を見て、という理由ではなく、がっちり理論武装と推進体制が整っている。これなら
市民が納得してくれるだろう、そしてさらに、市民運動のステージづくりという、私が
常々提言している、現在の地方自治体の最優先課題に、この小中一貫教育構想が積極的
に参加貢献できそうだ、という点で、松江市の制度設計はまことにすばらしいのではな
いかと、つくづく感じている次第です。
ひるがえって、丸亀市において、議会質問に答弁するのは決まって教育長、教育部長
ですが、この際、この案件に限っては、市長が推進責任者という自覚でやってもらわね
ばならないのではないかとも感じています。そうでなくて前述の、企画課や市民運動推
進課(もっともわが丸亀市にはそれすらまだ整ってないですが)それらとの連携など、お
よそ現在の教育委員会が進めるには失礼ながら荷が重過ぎる、そのように思えてなりま
せん。
「国を待ってはいられない」。果たして丸亀市に、そこまでの危機意識と意欲、成功へ
のビジョンがあってこの案件は進められているのでしょうか。そして子ども、家庭のみ
ならずこれからのまちづくりに不可欠な「市民と市民とのきずなづくり」の、どれほど
大切で、なおかつ、市民になかなか理解と行動を得られないというこの事実への認識が。
しかしながら「だから反対」という立場は、子どもと家庭が抱える深刻な今日的課題に
対してあまりに無責任でしょう。「国を待てないから市がやる」。そこには責任は自分が
かぶる、という腹構えがあり、「国が国が」と責任をなすりつけてはすまされない、本当
の地方自治の萌芽さえ私は松江市の取組に感じたのです。
ここに、綾歌町のケースでは小学生の通学距離の問題、適正な学校規模の問題その他
も絡み、市民の合意形成は容易ではありません。市民の賛同と深いレベルでの理解を得
られる優れた理論構築をする必要があります。
「必ず成功させる」との気概と責任と情熱を感じさせる、当局の取組、発言、行動を